Home> Report> 日刊ゲンダイ掲載原稿/第2回 走馬燈〜人間の神秘

日刊ゲンダイ掲載原稿

(連載期間)2008年8月23日〜11月29日

走馬燈〜人間の神秘

私に銃を突きつけた兵士

奥にいるのが、私に銃を突きつけた兵士。以来、隠し撮りは二度としないことにした。

アフリカ取材を始めて16年。現場で「死ぬかも…」と思ったことが7回ある。

なぜそんな危険な場所へ行くのか?
なぜなら、アフリカにしかない剥き出しの「生」と「死」に魅せられてしまったからだ。

初アフリカは92年。
ハードボイルドな雰囲気漂う戦場カメラマンに憧れていた私は、当時内戦中だったソマリアに陸路入国するため、隣国エチオピアの地を踏んだ。

ところが前年までエチオピアも内戦下にあったため、空港から一歩出るとそこはカオスだった。
駐車場を埋め尽くす難民。破壊された戦車の残骸が転がる幹線道路。物乞いをする手や足がない人々。

目の前の現実にびびった私は、「初めての海外取材だから無理は禁物」と自分に言い訳をし、到着した日にソマリア行きを捨て、首都アジスアベバから出ないことにした。

自分の小心さに忸怩たる思いを抱きつつ、恐る恐る街中の写真を撮っていた私は、ある日巡回中の武装兵士を見かけ、せめてその姿をカメラに収めようと隠し撮りを試みた。

顔は明後日の方向に向け、レンズを武装兵士に向けシャッターを押し込む。

やけに大きく聞こえたシャッター音に焦りながら、さりげなく兵士を見ると、鋭い視線でこっちに来いと目で合図する兵士。

『やばい』。恐怖で思考が停止した私の心臓10センチ手前に、冷たく黒い銃口が突きつけられる。

あっ、俺、死んだ――。

そう思った瞬間、突然、理髪店のサインポールのようなものが脳裏に「ピョコン」と2本生えてきて、過去の記憶が猛烈な勢いで鮮明に蘇ってきた。小学校の入学式や友人との懐かしい日々――。

死に直面した者が経験するという「走馬灯体験」は、やっぱりあったのである。

幸い兵士の上官が通りかかり、事態を収拾してくれたが、人生で初めて「死」と「生」を実感した瞬間だった。

第3回「世界一快適なソマリア空の旅」へ続く