日刊ゲンダイ掲載原稿
(連載期間)2008年8月23日〜11月29日
終戦直後のルワンダには、そこかしこに地雷原を示すドクロマークが残っていた。
終戦直後のルワンダで、地雷原を歩いたことがある。
地方の村で行われていた会議を取材していると、議題だった水不足を補うために、村はずれにある壊れた井戸を修理して使うことが決まった。
と、一人の男が私を見つけ「せっかく日本人がいるんだから、どうやって修理すればいいか教えてもらおう」と言いだし、その場が突然盛り上がった。
もちろん私は井戸のことなど何も知らないド素人。でも、その場の雰囲気に断るタイミングを逸し、とりあえず村長と一緒に壊れた井戸を見に行くことにした。
腰まで茂った草をかき分け井戸に辿り着くと、水を汲み上げるポンプの取っ手がない。
「まずは部品を手に入れないと――」と、当たり前のことを知ったかぶって説明する。
「ホウ、ホウ」
と真剣な表情でうなずく村長。
「いまの状態では、これ以上分からないです」。
とにかくその場から離れたくて、帰るそぶりを見せながら村長に精一杯残念そうな顔で言った私は、来た道を戻ろうと生い茂る草の中に足を踏み出した。
二歩ほど踏み出し何気なく周囲を見渡すと、雑草は井戸を中心に半径50メートルほどだけに生えている。
「あれ、なんか変だな?」
違和感を覚え、雑草がとぎれた先で私と村長を真剣な顔で待つ村人たちを見ると、その前に地雷原を示すドクロマークの看板が――。
嫌な予感がした。
「ひょっとして、ここ、地雷原だったりします?」。
まだ井戸の側にいた村長を振り返りながら恐る恐る尋ねる私。
「軍隊はそう言ってたね。ひょっとして心配かい?大丈夫、ノープロブレムだ!牛が毎日歩いてても一度も爆発したことないし、たぶんもう地雷はないよ!」と言い残すと、村長はスタコラと雑草をかき分け地雷原から出て「ほらな〜!」と笑顔で手を振る。
「たぶんって……」と絶句しつつも、永遠にそこにいるわけにもいかない。
頭に浮かぶ嫌なイメージを振り払い、私は最も危険度が低い歩き方を懸命に考えた。
「歩数を減らすために大股で歩くのは勢いよく踏み出すから怖い……。すこしずつ摺り足で歩けば。あっ、それだと点じゃなくて面になる……」。
散々悩んだあげく普通に歩くことを選択し、震える足で5分かけて地雷原を渡りきった。
あの恐怖感を何かに例えるなら、命がけで「黒ひげ危機一髪」をするような感じだろうか。
二度と味わいたくない体験だった。
第7回「貞操の危機」へ続く