Home> Report> 日刊ゲンダイ掲載原稿/第5回 マラリアの洗礼

日刊ゲンダイ掲載原稿

(連載期間)2008年8月23日〜11月29日

マラリアの洗礼

避難民キャンプの診療所

年間に200万人近くの人々がマラリアで命を落としている。避難民キャンプの診療所では慢性的に薬が不足し、人々は苦しんでいた。

1996年12月25日。ルワンダからケニアに移動する機上で、いやな予感がする寒気と、身体の奥がのたうつような気味の悪い関節痛を感じた。

ホテルにつくと同時にベッドに潜り込んだものの、悪夢にうなされ早朝4時頃に目が覚めた。すると関節の痛みはインフルエンザの数倍になり、心臓の鼓動にあわせて耐え難い鈍痛が前頭葉を襲う。

「ひょっとすると、これが噂に聞くマラリアか?!」。
そう思った私は、万が一のために準備していたマラリア治療薬を口に放り込んだ。

しかし数時間たっても症状は良くなるどころか、たびたび意識が飛び、昼過ぎには吐き気とともに視野狭窄が始まった。

「これは本当にヤバい…」。
あわててタクシーを呼び、おぼつかない足取りで病院へと向かう私。

マラリア。
マラリア原虫が寄生するハマダラ蚊に吸血されることで罹患する感染症で、年間3?5億人が罹患し150?270万人が死亡している。

寄生する四種の原虫(熱帯熱、三日熱、四日熱、卵形熱)により、それぞれ症状が異なるが、もっとも危険なのは原虫が脳の毛細血管を詰まらせてしまう熱帯熱マラリアの合併症である脳マラリアだ。
41度を超える高熱と意識低下や痙攣などがおこり、適切な治療をしないと死に至る。

私が罹ったのも脳マラリアで、病院で体温を測った時41.6度もあった。
幸い点滴と治療薬の静脈注射で事なきを得たが、あまりにも厳しいアフリカからのクリスマスプレゼントだった。

第6回「命がけの『黒ひげ危機一髪』」へ続く